東京高等裁判所 昭和31年(う)173号 判決 1956年4月14日
控訴人 被告人 金田一郎こと金成一
弁護人 後藤衍吉
検察官 大沢一郎
主文
本件控訴を棄却する。
当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
論旨第一点について。
なる程原審第一回乃至第四回の公判手続に立会つた検察官はいずれも副検事田中泰次であることは所論の通りである。然し検察庁事務章程第十三条によれば、地方検察庁の検察官に差支えがあるときは、検事正はその庁の検察官の事務を随時その庁の所在地の区検察庁の検察官に取扱わせることができるのであるから、区検察庁の検察官たる副検事と雖も、上司の命令があるときは適法に地方検察庁の検察官の事務を取扱うことができるものと解すべきところ、本件に於て所論の副検事田中泰次が横浜地方検察庁の検察官の事務取扱として原審たる横浜地方裁判所の公判に於ける訴訟手続に立会つたものであるかどうかの点については記録上必ずしも明白ではないが、然し原審公判に於て同副検事の検察官としての資格乃至権限につき訴訟関係人より異議の申立等があつたことは認められないところより考察すると、同副検事は適法に横浜地方検察庁検察官の事務取扱の辞令を有していたものと認むべきであるから、これと反対の見解を前提として原審の訴訟手続には法令違反がある旨主張する論旨は到底採用することができない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)
弁護人後藤衍吉の控訴趣意
第一点原審の訴訟手続には左記法令違反があり、判決に影響を及ぼすこと明らかであると信ずる。
即ち原審における第一回乃至第四回の公判手続に立会つた検察官は、いずれも副検事田中泰次であつて、このことは公判調書から明白である。而して検察庁法第十六條第二項には、「副検事は区検察庁の検察官の職のみにこれを補するものとする」と規定されており、又同法第五条、第二条第一項の規定からみても副検事は原則として地方裁判所に係属する刑事事件の審理に立会い、訴訟行為をなし得ないものであることは明らかである。原審記録からは、副検事田中泰次が横浜地方検察庁における検察官事務取扱を命じられていたとみるべき何等の資料も見出すことができない。従つて漫然副検事田中泰次の立会の下に審理された原審の訴訟手続には法令違反があり破棄さるべきものである。
(その他の控訴趣意は省略する。)